アートコミュニティからのオープンレター
Artforum 誌で、ガザにおける紛争についてのオープンレターが公開されている。記事の公開は October 19, 2023 5:29 pm とある。
このオープンレターは読む価値があるとおもうので、以下に訳出します。
翻訳についてはアーティストで翻訳者の奥村雄樹さんにざっくり見ていただきましたが、誤訳等の責については筆者である天重にあります。
アートコミュニティから文化的な組織へのオープンレター
アートコミュニティは多様であり、国境、国籍、信仰や信念の体系を超えている。私たちアーティスト、作家、キュレーター、映画製作者、出版社、そして核をつくって機関や組織を支える労働者たちは、コミュニティが単に安全であるだけでなく、人道的な場所であることが保証されている必要があります。
私たちはパレスチナの解放を支持し、すべての民間人の殺害と危害の停止、即時停戦、人道援助がガザに入れること、そして深刻な人権侵害と戦争犯罪への統治機関の加担の停止を求めます。
私たちは、占領され包囲されたガザ地区で230万人のパレスチナ人が直面している人道的危機をめぐって、機関による沈黙が直ちに破られることを求めます。パレスチナ常駐の国連人道調整官の言葉を借りれば、「国際社会がこのような事態を放置すれば、私たちの人間性が失われてしまう。私たちが今見ているのは、単に非人道的なことなのです」。
この緊急の危機とエスカレートする大量虐殺の時期に沈黙することは、政治的に中立な立場ではありません。ここ数年にわたって、社会正義と不平等に制度的に取り組むための意義深い試みが継続しています。あなた方の芸術プログラムは、こうした政治の恩恵を受けています。パレスチナの人々が直面している人道に対する罪への認識において、私たちは今その試みが継続し拡張されることを求めます。
現在進行中のガザ空爆と住民の殺害・強制移住は、アムネスティ・インターナショナル、国連、世界保健機関(WHO)、アクション・エイドによって非難されています。これらの機関を含むさまざまな国際機関が、ガザ市民に対する集団的懲罰(援助活動家、ジャーナリスト、医療従事者の殺害、インフラや生命維持に必要な資源の破壊、水、食料、電気、医薬品の遮断など)が戦争犯罪に相当すると指摘しています。
私たちが目撃しているのはジェノサイドの展開だということを示す証拠は十分にあります。危機にさらされたパレスチナ人の生命は、人権や正義はおろか援助に値しないと思われています。イスラエルはすでに、国連ジェノサイド条約で規定されている5つの行為のうち3つを行っているが、処罰を受けていません。イスラエルの歴史家であり、ジェノサイドの研究者であるラズ・シーガルが書いているように、「イスラエルは、16年に及ぶガザ包囲(近代史上最長であり、国際人道法に明らかに違反している)を、『完全な包囲』にするためにさらに強化した」。ガザにおけるパレスチナ人とパレスチナ社会の組織的破壊を達成するためのこの指令は、イスラエル国防相ヨアヴ・ガラントから直接出されたもので、彼はターゲットを「人間の姿をした獣 human animals」という卑劣な言葉で表現しています。
**私たち署名者は、アイデンティティを問わず、すべての民間人に対する暴力を拒否し、暴力の根本原因である抑圧と占領を終わらせることを求めます。**私たちはパレスチナの人々と連帯します。私たちは、アートに関わる組織が文化労働者たちとの連帯を示し、自身の政府に対して即時停戦とガザの検問所を開放して妨害なしに人道援助が立ち入ることができるよう要求することを求めます。
表現の自由を守り、教育・コミュニティ・創造性を育むことを使命とする芸術に関わる組織や公共機関は、生命の自由と生存の基本的権利のために立つことを、私たちは信じています。私たちは、生命にも芸術にもふさわしくない非人道的な行為を拒否し、停戦を求めるよう各国政府に公的に要求することを求めます。
UPDATE(10月23日): 8,000人の署名者全員に請願書を再送付することはできませんが、私たち請願書を作成したグループと、ここ数日に連絡を取ってくださった多くの署名者の方々は、「アイデンティティを問わず、すべての民間人に対する暴力」を拒否するという私たちの呼びかけが、一部の読者によって、10月7日にハマスが行ったイスラエル人に対する凄惨な虐殺を明確に非難しておらず、その暴力に反発していないと理解されたことを悲しんでいます。私たちはすべての民間人の犠牲者を悼みます。私たちは、すべての人質の迅速な解放を望み、即時停戦を求め続けます。
以上がオープンレター本文です。
このオープンレターは8000人以上の署名を集めた一方で、強い感情的な反感をもたらしてもいる。
10月7日に起きたハマスによる凶行を無視している、というものである。
しかし、そういった不毛な対立について語るより、ここに記述されている認識のほうがよほど重要だろう。
このレターは、芸術の関係団体や公共組織に向けて、彼らが政府に紛争の即時停戦と人質の解放を求めるよう訴える。「機関による沈黙」と訳したのは institutional silence だが、アーティストたちは沈黙を打ち破るよう要求する。
この記事を書いているうちにも、Artforum にこのオープンレターを掲載し、署名もした編集長の David Velasco 氏が解雇されている。この解雇について報道した New York Times の記事によれば、 David Velasco 氏は「後悔はしていない。言論の自由とアーティストの声を常に支持してきた雑誌が、外部の圧力に屈したことに失望している」と語っているということである。まさに沈黙が強いられようとしている。
国境なき医師団によるオンライン署名の募集でも、沈黙について触れている。この署名は2023年11月6日まで募集している。
言葉が常に人命を救えるわけではありません。しかし、沈黙は確かに人を殺しえます。
--1999年ノーベル平和賞受賞スピーチにて 国境なき医師団会長(当時)ジェイムズ・オルビンスキ
ハマスによる凶行を許すべきではないとは誰でも言うだろうが、いま起きようとしていることはあきらかにそれ以上のことである。いや、これは今起きようとしていることなのではなくて、ずっと起きていたことなのだ。
ガザを知る緊急セミナー ガザ 人間の恥としての(2023年10月23日)
https://www.youtube.com/watch?v=-baPSQIgcGc
上記の動画で、岡真理先生が最後に引用している言葉をここにも引いておきます。
地獄とは人々が苦しんでいるところのことではない。人が苦しんでいるのを、誰も見ようとしないことだ。
マンスール=ハッラージュ
イスラエルのジェノサイドについて、語られるべき言葉が語られなければならない。
私の声がどれだけ小さいものだとしても、パレスチナの解放を求めます。